職業別残業代トラブルの事例

運送業・配送業

証拠となりうるもの・裁判例

トラック運転手などの運送ドライバーや配送・宅配ドライバーの人材不足は非情に深刻で、労働基準監督署からの調査や是正勧告が出されるほど、違法な長時間・過重労働が常態化しています。

国土交通省や厚生労働省者による、長時間労働の抑制に向けた取り組みがなされている一方で、運送会社の中には、「固定残業代制」や「事業場外労働でのみなし労働時間制」を悪用し、残業代が支払わないというケースが増えています。

トラック運転手などは労働時間の算定が難しいと言われることもありますが、証拠となりうるものを揃え、しっかりと立証できれば、残業代を請求することができます。

  • 「待機時間は休憩時間、積荷時間は労働時間に入っていない」
  • 「固定残業代制だから、残業代は含まれている」と言われている
  • 「事業場外労働だから、残業代は含まれている」と言われている
  • 「歩合制だから、残業代は出ない」と言われている

証拠となりうるもの

  • デジタルタコグラフ
    ※デジタルタコグラフは、証拠を残さないように、強制的にオフにされたのであれば、詳細に記録をとっておきましょう
  • 報・週報運行記録と時間
  • 手帳やメモなどへの詳細な記録
  • 配車表
  • アルコール検知記録など

裁判例

大阪地裁平成28年12月16日  LLI/DB 判例秘書登載
本件は、被告でトラック運転手として稼働していた原告が、未払の時間外割増賃金及び付加金を請求したのに対し、被告が、原告との労働契約は時間外割増賃金を含んだ歩合制を内容とするものであり、未払の時間外割増賃金は存在しないとして争った事案である。
裁判所は被告が争っている事項について、被告と原告の間で作成された労働条件通知書を見ると、被告の主張する客観的事情はないと判断し、原告の請求を認めた。

名古屋地裁平成28年3月30日 LLI/DB 判例秘書登載

長距離トラックの運転手であった原告が、労働基準法37条に基づく割増賃金等の支払を求めた事案であり、所定のトラック運転手に対してその業務が所定労働時間内か否かに関わらず走行距離に応じて支払われる長距離手当を割増賃金の支払いに当てる旨の就業規則の規定があり、これに基づいて長距離手当の支給によって割増賃金が支払われたといえるかが争点となった。

裁判所は長距離手当が割増賃金に該当するか否かは、当該支給が労働基準法37条の例示に該当しないとしても、①割増賃金としての実質を有し、②割増賃金としての実質を有する部分とそれ以外が判別でき、割増賃金の額を下回らないことが労働者側で判断しうるか否かによって判断すべきとした。そして本件においては、長距離手当が通常の法定労働時間の労働に対する対価も含み、特別な労働時間に対する時間の比例性という性質がないことから割増賃金としての実質を有しないことから①を満たさないとして原告の請求が認められた。

サービス業・接客業

証拠となりうるもの・裁判例

サービス業や接客業は、長時間労働やサービス残業など時間外労働が常態化しているケースが多いです。

さらに、時間外・休日労働や深夜労働の一定時間分を固定残業代として支払う「固定残業制」を悪用して、固定残業代(定額残業代・みなし残業代)を超える残業をしても残業代を支払わない、タイムカードを打刻させないなど悪質なケースが少なくありません。

  • 「退勤の打刻をしてから残業をしていた」
  • 「タイムカードの打刻をしなくていいと言われた」
  • 「そもそもタイムカードがない」
  • 「開店準備があるので出勤時間より1時間早く出勤していた」
  • 「月の残業時間上限を超えて残業申請をすると始末書を書かかされた」
  • 「シフト終了時間、定時に帰ったことがない」
  • 「管理職だから残業代は出ないと言われた」

上記のようなケースの場合、証拠となりうるものを集めて立証できれば、残業代を請求することができる可能性が高いでしょう。

証拠となりうるもの

  • シフト表
  • 手帳やメモなどへの記録
  • メールの送信履歴
  • レジの記録 など

裁判例

平成29年1月30日 LLI/DB 判例秘書登載
本件は、課長代理と店長を兼任する従業員であった亡Gの相続人らが、会社が労働者の労働時間を適正に把握し、適正に管理する義務を怠り、亡Gを長時間労働等の過重な業務に従事させたため、亡Gが致死性不整脈により死亡したなどと主張して、会社に対し、不法行為による損害賠償の支払を求めた事案である。
本件では、労働時間の超過、亡きGの死因と業務の関連性、会社のGに対する管理監督義務違反の有無が争われた。
これに対して裁判所は労働時間の超過については亡Gの出退勤記録及び従業員の証言により認められるとした。そしてこれを前提として、亡Gには心筋梗塞の既往症があったものの、程度は死に至るものではなかたため、長時間労働による心身の負担から引き起こされたと認定した。また、会社側が亡Gは管理監督義務者に該当するので労働基準法は適用されず、亡Gの状況改善について会社に監督義務違反は無いと主張したところ、亡Gの業務内容から監督義務者には該当しないと認定し、会社の監督義務違反を認めた。そしてこれらの認定される事情から、亡Gの相続人らによる損害賠償請求は認められるとした。

平成29年1月20日  LLI/DB 判例秘書登載
本件は元教室長である原告が塾を経営する被告会社に対して残業代を請求した事案である。
本件においては、①原告の管理監督者性、②残業代の基礎賃金の額、③原告の労働時間が争点となった。
争点①については被告の規定において、教室長は管理監督者に該当すると規定されていたことから、原告の管理監督者該当性が問題となったが、裁判所は、原告は経営方針を決定していないこと、被告が他の社員と同様に出退勤の管理をしていたことなど、原告の職務内容、責任と権限、勤務態様などから判断すると管理監督者性は否定されると判断した。
次に、争点②については原告に対して、役付手当が支払われていたがこれは残業代としての性質を有しないことから、基礎賃金に算入されるものであると判断された。また、本件では固定残業代制度が導入されていることから未払いの賃金は無いと被告が主張したことに対して、かかる制度は実質的には固定給を減額してその分を残業代にまわすというものであったため、無効であると判断された。
さらに、③については、被告が原告に提出させていたタイムカードから労働時間は算定できると判断された。

IT・メディア系

証拠となりうるもの・裁判例

IT・WEBメディアの企業では、「固定残業制」や「裁量労働制」、「年俸制」を採用していることが多いですが、固定残業代を超える時間外労働を行っても残業代が支払われないなどのケースが少なくありません。
また、出退勤や勤務時間など時間の管理も個人の裁量に任せる「裁量労働制」ですが、常識を外れた仕事量を与えて、社員を使い倒している確信犯的な企業もあるようです。
この「裁量労働制」には、「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」があり、それぞれ対象業務が法令により定められています。

※専門業務型裁量労働制の対象業務(法令で定める19業務)
―労働基準法施行規則第24条の2の2第2項と同項第6号により厚生労働大臣が指定する業務を定める平成9年2月14日労働省告示第7号―
「専門業務型裁量労働制の対象業務ではない仕事をしているにもかかわらず、労使協定の書面には法令にある対象業務が記載されている」といったことはないでしょうか。その場合、裁量労働制は無効となり、実労働時間がみなし労働時間を超えている場合、残業代を請求できる可能性があります。

証拠となりうるもの

  • タイムカード
  • 実労働時間を記録したメモ
  • パソコンのログ履歴作業報告書など

裁判例

東京地裁平成28年3月4日判決は、情報通信事業を主たる業とする株式会社(以下被告)に派遣社員としてVAN事業部に勤務していた原告が、被告において所定労働時間外にも就労し、その後被告を退職したとして、時間外、深夜及び休日の労働に係る割増賃金、付加金、退職金等の支払を請求した事案です。

本判決では、以下の判断で原告の請求が認められました。原告の勤務していた事業部は、データ通信サービスを所管しており、本件サービスは正常に作動しているかを24時間常に監視する必要があった。そこで、最初は昼夜の2部交代制で勤務していたものの、そのうち他の従業員が退職したことから、原告はひとりで24時間休むことなく本件各業務を行わなければならない状態になっていた。そして、上記状態を伝えた上でその改善を求めるなどしていること、原告の勤務時刻につきタイムカードで管理されていたことから、原告は被告における就労についての諾否の自由を有しておらず、被告と原告は雇用関係にあったといえる。以上より、時間外手当を受けられる地位にあったにもかかわらず、支払われていないとして、被告に対し支払いが命じられました。

平成23年3月9日 東京地方裁判所判決 【掲載誌】労働判例1030号27頁
本件は情報処理サービスを提供する被告会社でソフトウェア開発事業に従事していた原告が未払いの残業代請求をした事案である。
本件では、被告が原告は管理監督者に該当し、時間外労働に対する規定である労働基準法37条が適用されないとして、管理監督者性が争点となった。

本件においては、被告会社において品質管理・進捗管理という重要な役割を期待される立場にあり、また、他の従業員に比して優遇を受けていたということはできるが、原告は被告会社の危機を打開するために急遽入社し、長期間勤務が予定されていなかったこと、原告の勤務態様に管理監督者に認められる自由裁量がないこと、被告会社の会社組織という観点から検討すると権限ないし責任が明確ではないことから、原告には管理監督者性は認められないとされた。

したがって労基法37条が適用されるので原告の請求が認められると判断された。

建設・土木

証拠となりうるもの・裁判例

「現場監督者は管理監督者なので残業代はでない」と言われている。
「管理監督者だから残業代は出ない」「管理職手当が残業代の代わり」などと言われている場合も、残業代を請求できる可能性があります。
1日に8時間以上、週に6日間、週に40時間を超えて働いている。
週6日目の労働については、具体的な勤務時間が分からなくても、働いていたことが立証できれば、少なくとも所定労働時間分の残業代を請求できる可能性があります。
工事現場に向けて出発する前に、会社の事務所などに集合し、必要な機材を積み込み、工事現場から戻ってきた後に、機材の後片付けをしたり報告書などの作成を行ったりしている。
現場までの往復も労働時間と考えられる可能性が高く、残業代を請求できる可能性があります。
工事現場に向かう車内で作業の打ち合わせを行っている。
集合時刻から解散時刻までの時間が労働時間と考えられる可能性が高く、1日の労働時間が8時間を超えている場合、残業代を請求できる可能性があります。

証拠となりうるもの

  • 会社で施工計画書や設計図書などの書類作成を行っているパソコンのログ
  • 会社の入退室管理や出入管理などの記録
  • 工事現場の往復に使用した社用車の記録
  • 始業終業時刻、作業の場所、作業内容のメモ
  • 作業日報会社が施主や元請業者に提出した作業報告書危険予知活動(KY活動)実施の記録
  • 工事現場への往復に使用した社用車のETC利用記録

裁判例

大阪地裁平成17年10月6日判決(労判907号)における事案の概要としては、建設コンサルタントとして主に官公庁の土木設計等を行う株式会社(以下被告)に従事していた原告が、残業を含む勤務を自ら作成の勤務時間整理簿に正確に記載し、本件文書を上司が確認し、被告会社もその内容について認めていることから、時間外勤務手当の支払義務があるにもかかわらず、支払われていないため、時間外勤務手当の請求をしたものです。
これにつき裁判所は以下のように判断して、原告の時間外手当の請求を認めました。本件につき、原告の契約社員労働契約書に基本年棒には残業手当を含むとの条項があったもののその額が明らかではなく、当該契約書の条項をもって原告の年棒中に残業手当が含まれているとはいえないため、本件整理簿に基づき計算・算出されるべきであり、それによれば残業を含む勤務を行ったとされる。そして、使用者の具体的な時間外勤務の命令がなかったとしても、本件整理簿が提出され、上司もこれを確認し、時間外勤務を知りながらこれを止めなかったというべきであるため、少なくとも黙示の時間外勤務命令が存在し、被告は時間外勤務手当の支払義務を負うとされました。
大阪地裁平成29年1月29日判決における事案の概要は、原告は、被告会社で正社員として清掃業務に従事していましたが、採用されてから半年後、給料は増額されたものの、それまで支払われていた普通残業手当、深夜残業手当が支給されなくなってしまいました。また被告は、事務所にタイムレコーダーを設置せず、原告に対し、毎月下旬に、前月21日から当月20日までの勤務表を提出させていました。
そこで、上記勤務表の信用性が争われましたが、本判決は、被告は原告に対し、本件勤務表の出勤時間や退社時間について異議があるにもかかわらず、適時に異議を述べなかったことが労働時間適正管理義務に違反しているというべきこと、被告は、実態と明らかに異なることを証明する証拠を何ら提出していないことから、本件勤務表の信用性を否定することはできないとしました。
また、原告が管理監督者として時間外・休日労働の割増賃金の支給対象外とされるとの被告の反論についても、原告は企業経営に関する重要事項に関与していたとはいえず、また恒常的に長時間労働に従事していたことから、出退社について裁量の余地は大きくなかったといえるため、原告は支給対象内とされました。

営業職

ケース・証拠となりうるもの・裁判例

営業職の場合、「営業手当を残業代の代わりに支払っているから」などと言われて、残業代が支払われていないケースが少なくありません。これは誤った理解です。
例えば、労働契約で営業手当が「残業代の45時間分に相当」などと規定されている場合、残業時間が0分でも40時間でも、営業手当は規定のとおり支払われます。そして、実際の残業時間が45時間を超えた場合には、営業手当とは別に残業代は支払われます。
また、出張や外回りなど外勤の営業職の場合、「事業場外労働のみなし労働時間制が適用されているから残業代は出ない」と誤認識されているケースも少なくありません。
適用要件を満たしている場合には、所定労働時間が法定労働時間(1日8時間)を超える時間外労働に対しての残業代は支払われます。

証拠となりうるもの

  • タイムカード
  • 訪問先、商談時間などを詳細に記載した業務日報、メモ
  • 業務(残業)終了時の報告
  • メールの送受信履歴
  • 交通ICカード(Suica・PASMO)・定期券の利用履歴
  • 雇用契約書
  • 就業規則
  • 給与明細など

裁判例

東京地裁平成28年3月31日判決は、原告が被告に対し、労働者としての地位確認した上、賃金請求権に基づく時間外労働等の割増賃金及び付加金等の支払いをした事案です。
まず、被告の外注事業者としてインテリアコーディネーターに従事していた原告は、被告会社から依頼を受けて、週末に開催される販売会等に赴き営業活動を行っており、それに加えて、被告事務所に赴き事務作業を行うようになり、被告における業務量が増加したことから、被告会社の仕事を専属的に行うようになりました。
上記事実から、原告は被告の業務の遂行上組織に不可欠な存在であり、時間的、場所的拘束がある態様で業務を行っていたことが認められ、被告代表者も原告が被告事務所で事務作業を行う都度日当が発生するにもかかわらず、原告の来社を制止しないなどの事情から原告の勤務状況を容認していたものと認められるため、事実上原告は、被告からの仕事の依頼を拒否することができない立場にあったと認められるとしました。

以上を前提にすると、原告は、被告との関係で労働基準法等が適用される労働者であったと評価できるため、記録上の労働時間に基づく割増賃金等の支払請求が認められるとしました。
東京地裁平成25年6月26日判決は、室内装飾及び住宅設備機器の設計、施工及び監理等を業とする株式会社(以下被告)が請負建築した住宅で築10年を経過した物件の点検、リフォームの営業職に従事していた亡Aの遺族(以下原告)が、残業代を請求した事案です。

裁判所は以下の判断をし、Aの残業代を認めました。まず、始業時刻につき、所定時刻より早い時刻がAの手帳に記載されている日は、訪問先の住所電話番号、訪問時刻が漏れなく共に記載されており、被告が所持する日報の記載に矛盾する記載もない上、日報は毎日提出するよう被告から強く指導がされており、Aは他の者が提出しない日でも日報を提出していたこと等から、原告の主張は信用できる。また、帰社して日報を作成することが前提となっていたことから、Aは帰社した上で日報を作成していたと認められ、Aは日報の登録時刻、更新時刻まで業務を行っていたとみるべきであり、終了時刻はそのうちの最も遅い時刻と認められる。以上の事情にもかかわらず、所定時間分の給与しかなされていなかったことから、被告から原告に対する残業代の支払いが命じられました。

医師

証拠となりうるもの・裁判例

専門性が高く、また頻繁に緊急対応を求められる医師の仕事は、「時間外労働」「深夜労働」「休日労働」といった観念が薄く、サービス残業が常態化している実態があります。
昨今の人材不足の影響で、状況はより深刻になっていると言えるでしょう。

医師の場合、その業務内容の特殊性ゆえに、下記のような理由により、「残業代は発生しない」と思われがちですが、証拠となるものをそろえれば、通常通り、残業代は請求可能です。

「専門職であるため裁量労働制が適用され、残業代は発生しない」と言われている
残業代が適用されない専門業種型裁量労働制の対象業種は、法令により定められています。この対象業種に、医師は含まれていません。したがって、裁量労働制を理由に残業代を請求できないということはありません。

「年俸制であるため、残業代は発生しない」と言われている
年俸などには、あらかじめ一定時間の残業を想定して、固定残業代が含まれている場合があります。固定残業代は、「年●時間まで」「月●時間まで」と言ったように時間が決められており、その定められた時間内であれば、残業代を請求することはできません。しかし、それを超える労働時間分については残業代の請求が可能です。
また、後述するとおり、最高裁の判例では、固定残業代は基本給から判別できる状態で支払われなければならないとしています。

「管理監督者であるため、残業代は発生しない」と言われている
勤務医の場合、他の医師や看護師に指示や命令を出し、業務を管理・監督するケースもありますが、これらの行為のみでは、労働基準法の規定する管理監督者には該当しません。同法上の管理監督者とは、人事労務の指揮監督権限や、自分自身の労働時間をコントロールする権限(たとえば、出勤時間を自ら決める権限)などが与えられている立場のことです。したがって、それらの権限がない場合は、管理監督者には当たらず、通常どおり残業代を請求できます。

「宿日直・宅直は労働時間に当たらない」と言われている
宿日直・宅直勤務中、実際に医療行為をした場合は、疑いなく労働時間として認められます。また、「使用者の指揮命令下に置かれている時間が労働時間である」という判例もありますので、必要に応じて業務を行うことが前提とされている宿直勤務は、労働時間であると考えるのが妥当です。

証拠となりうるもの

  • タイムカード
  • 業務日報
  • 時刻の記載のある業務記録や医療記録、カルテ
  • 病院への入退室記録
  • パソコンの起動時間データ

裁判例

大阪高等裁判所平成22年11月16日判決
被告は、奈良県立病院(現・独立行政法人奈良県総合医療センター)を設置する奈良県、原告は、同病院の産婦人科医師。夜間宿日直勤務および宅直勤務について、実作業時間以外の勤務時間帯が労働時間として扱われておらず、割増賃金の支払いがなされていなかったことに対し、原告である医師らが残業代の支払いを求めたものである。

医師らの宿日直が、労働基準法および労働基準法施行規則に規定される「断続的労働」に該当するかが争点となった。「断続的労働」とは、作業が間欠的に行われる性質のものである理由から、短い作業時間と手待ち時間が繰り返されるような労働のことを指す。「断続的労働」のうち、労働基準監督署長の許可を得たものについては、労働時間や休日の規定の適用が除外されるため、残業代や休日割増賃金の支払いが不要になる。

認定の結果、大阪高判は、同病院は「断続的労働」について労働基準監督署長の許可を得ているものの、本件の宿日直は断続的労働には該当しないとし、宿日直勤務時間の全部について、割増賃金の支払いを命じた。

最高裁判所第2小法廷平成29年7月7日
一審、二審判決を破棄。審理を東京高等裁判所に差し戻し
被告は神奈川県の私立病院、原告は同病院に勤務していた男性医師。男性の雇用契約は、1700万円の年俸契約となっており、同契約の規定では、午後5時30分~午後9時の間に残業をしても、時間外労働分の割増賃金を上乗せしない内容だった。これに対して原告側は、この時間外労働約320時間分の一部について、割増賃金が未払いであると訴えた。医師の高額年俸に残業代が含まれるかが争点となった事件である。

第一審では、原告の年俸が高額であった点などから、「基本給と区別できないが、残業代も含まれる」とするとともに、「命に関わる仕事をする医師は、労働時間規制の枠を超えた活動が求められ、時間に応じた賃金という考え方はなじまない」と指摘していた。第二審も、第一審の判決を支持した形だった。

これに対して、最高裁の判例では、労働基準法の規定に従って時間外労働に対する割増賃金が支払われたことを明確にするため、該当部分を他の賃金とはっきり区別できるようにしなければならないとしている。最高裁第2小法廷は、本件について「残業代と基本給を区別できない場合は、残業代が支払われたとは言えない」と判断し、残業代の未払い分を計算させるために、審理を東京高裁に差し戻している。

看護師

証拠となりうるもの・裁判例

不規則な勤務形態と、慢性的な人材不足により、看護師のサービス残業は常態化しています。業務開始時間の前に患者の情報収集をしたり、休日の研修会に参加したりした場合も、残業をなかなか申請できないのが現状です。

しかし、労働基準法では1日8時間・週40時間を超えて働いた場合は、原則、雇用主は従業員に対して、残業代を支払わなければならないと定められています。
もちろん、終業時間を超えて働いた場合だけではなく、始業時間より早く来て働いた場合も、残業代が発生します。

下記のような場合でも、就業時間の記録が残った証拠があれば、看護師でも未払い分の残業代を請求可能です。

「業務開始時間前の情報収集や、業務終了時間後の看護記録の作成は業務に含まれない」と言われている
もし、それをやらなければ、業務に支障をきたすような作業は、労働とみなされます。情報収集や看護記録の作成は業務に直接関係するものですので、たとえ既定の就業時間外に行ったとしても労働です。したがって、該当する作業時間は残業時間となる可能性が高く、残業代を請求できます。

「定時直前や直後の緊急対応は、師長からの命令ではなく、自主的にしているものだから、残業にはならない」と言われている
確かに、残業は、上司からの命令によるもののみであり、自主的に行っているものは該当しないというのが基本です。しかし、定時直前のナースコールや入院患者対応など、緊急で引き継ぎもできない事情がある場合は、「黙示的に業務命令となっているもの」とみなされる可能性が高く、残業になりますので、残業代の請求が可能です。

「変形労働時間制なので、残業の概念がない」と言われている
看護師の場合、日ごと、週ごとだけでなく、月ごとや年ごとに労働時間が定められている変形労働時間制が採用されていることが多くあります。たとえば、ある週に48時間労働、その次の週に32時間労働したケースを考えてみましょう。もし、週単位で労働時間が40時間と定められている場合は、48時間労働の週は残業を8時間していることになります。一方、月単位で労働時間が定められている場合には、32時間労働の週で8時間分を相殺しているため、残業時間はないことになります。このように、変形労働時間制の場合は、残業時間の算出方法が労働時間の規定単位によって異なってくる場合がありますので、注意が必要です。ただし、変形労働時間制の場合でも、単位ごとの規定労働時間を超えている場合は残業となりますので、確認しておくとよいでしょう。

「研修や勉強会は業務ではない」と言われている
研修や勉強会のうち、出席しなければ業務に支障をきたすようなものや、強制参加のものは、労働に当たるため、残業の対象となり、残業代を請求可能です。

「休憩時間にやるべきナースセンターの掃除やランチミーティングは残業にはならない」と言われている
休憩時間とは、法律的には、完全に労働から離れることが保障されている時間です。したがって、業務に関係するもので、上司から命令があったり、黙示的に業務命令となっていたりする作業は、休憩時間中に行ったとしても残業の対象となり、残業代を請求できます。

「過去の残業代はさかのぼって請求できない」と言われている
過去の残業代については、たとえ退職していたとしても、過去3年間はさかのぼって未払いの残業代を請求できます。※
また、退職後に過去の残業代を請求する場合、当時の雇用主に遅延損害金を支払わせることも可能です。

※2020年4月1日以降に支払われる賃金については、時効期間が2年から3年に変更されました。
ただし、2020年4月1日より前に発生した賃金については、時効期間が2年のままとなりますのでお早めにご相談ください。

「看護師長は管理監督者であるため、残業代が出ない」と言われている
看護師長は、確かに看護師の業務の管理・監督を行っていますが、労働基準法の定める管理・監督者というのは、人事労務について指揮・監督する権限や、自分自身の労働時間をコントロールする権限などが与えられている立場のことです。たとえば、自分の出勤時間を自ら決定できないのであれば、看護師長であっても、管理監督者とは言えないと考えられます。したがって、一般的な看護師長の場合は、管理監督者に当たらず、残業代を請求できることがほとんどです。

証拠となりうるもの

  • タイムカード
  • 就業時間のメモ
  • 電子カルテの記録
  • 業務日報のメールなど
  • 勤務シフト表

裁判例

大阪地方裁判所平成22年7月15日判決
被告は医療法人大寿会、原告は、同医療法人に勤務する看護師、看護助手ら。原告の看護師らは、業務の引き継ぎやミーティングを、所定始業時間より前、または終業時間後に行っていた。看護師らは出勤および退勤の際にタイムカードの打刻をしており、所定の始業時間や終業時間とタイムカード打刻時間にずれがあった。原告は、タイムカード打刻時間を基準として労働時間を認定するべきであると主張し、時間外労働として割増賃金の支払いを訴えた。

これに対し、大阪地裁は、原告らの労働時間はタイムカード打刻時間を基準として認定すべきであるとし、被告に未払い分の時間外割増賃金を支払うよう命じた。

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