[ 職種別 ]看護師
不規則な勤務形態と、慢性的な人材不足により、看護師のサービス残業は常態化しています。業務開始時間の前に患者の情報収集をしたり、休日の研修会に参加したりした場合も、残業をなかなか申請できないのが現状です。
しかし、労働基準法では1日8時間・週40時間を超えて働いた場合は、原則、雇用主は従業員に対して、残業代を支払わなければならないと定められています。
もちろん、終業時間を超えて働いた場合だけではなく、始業時間より早く来て働いた場合も、残業代が発生します。
下記のような場合でも、就業時間の記録が残った証拠があれば、看護師でも未払い分の残業代を請求可能です。
もし、それをやらなければ、業務に支障をきたすような作業は、労働とみなされます。情報収集や看護記録の作成は業務に直接関係するものですので、たとえ既定の就業時間外に行ったとしても労働です。したがって、該当する作業時間は残業時間となる可能性が高く、残業代を請求できます。
確かに、残業は、上司からの命令によるもののみであり、自主的に行っているものは該当しないというのが基本です。しかし、定時直前のナースコールや入院患者対応など、緊急で引き継ぎもできない事情がある場合は、「黙示的に業務命令となっているもの」とみなされる可能性が高く、残業になりますので、残業代の請求が可能です。
看護師の場合、日ごと、週ごとだけでなく、月ごとや年ごとに労働時間が定められている変形労働時間制が採用されていることが多くあります。たとえば、ある週に48時間労働、その次の週に32時間労働したケースを考えてみましょう。もし、週単位で労働時間が40時間と定められている場合は、48時間労働の週は残業を8時間していることになります。一方、月単位で労働時間が定められている場合には、32時間労働の週で8時間分を相殺しているため、残業時間はないことになります。このように、変形労働時間制の場合は、残業時間の算出方法が労働時間の規定単位によって異なってくる場合がありますので、注意が必要です。ただし、変形労働時間制の場合でも、単位ごとの規定労働時間を超えている場合は残業となりますので、確認しておくとよいでしょう。
研修や勉強会のうち、出席しなければ業務に支障をきたすようなものや、強制参加のものは、労働に当たるため、残業の対象となり、残業代を請求可能です。
休憩時間とは、法律的には、完全に労働から離れることが保障されている時間です。したがって、業務に関係するもので、上司から命令があったり、黙示的に業務命令となっていたりする作業は、休憩時間中に行ったとしても残業の対象となり、残業代を請求できます。
過去の残業代については、たとえ退職していたとしても、過去3年間はさかのぼって未払いの残業代を請求できます。※
また、退職後に過去の残業代を請求する場合、当時の雇用主に遅延損害金を支払わせることも可能です。
2020年4月1日以降に支払われる賃金については、時効期間が2年から3年に変更されました。
ただし、2020年4月1日より前に発生した賃金については、時効期間が2年のままとなりますのでお早めにご相談ください。
看護師長は、確かに看護師の業務の管理・監督を行っていますが、労働基準法の定める管理・監督者というのは、人事労務について指揮・監督する権限や、自分自身の労働時間をコントロールする権限などが与えられている立場のことです。たとえば、自分の出勤時間を自ら決定できないのであれば、看護師長であっても、管理監督者とは言えないと考えられます。したがって、一般的な看護師長の場合は、管理監督者に当たらず、残業代を請求できることがほとんどです。
証拠となりうるもの
- タイムカード
- 就業時間のメモ
- 電子カルテの記録
- 業務日報のメールなど
- 勤務シフト表
裁判例
-
大阪地方裁判所平成22年7月15日判決
被告は医療法人大寿会、原告は、同医療法人に勤務する看護師、看護助手ら。原告の看護師らは、業務の引き継ぎやミーティングを、所定始業時間より前、または終業時間後に行っていた。看護師らは出勤および退勤の際にタイムカードの打刻をしており、所定の始業時間や終業時間とタイムカード打刻時間にずれがあった。原告は、タイムカード打刻時間を基準として労働時間を認定するべきであると主張し、時間外労働として割増賃金の支払いを訴えた。
これに対し、大阪地裁は、原告らの労働時間はタイムカード打刻時間を基準として認定すべきであるとし、被告に未払い分の時間外割増賃金を支払うよう命じた。