[ 勤務形態別 ]事業場外みなし労働時間制
みなし労働時間制には、「事業場外みなし労働時間制」「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」があります。
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事業場外みなし労働時間制
事業場外で労働する場合で労働時間の算定が困難な場合に、原則として所定労働時間労働したものとみなす制度。
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専門業務型裁量労働制
デザイナーやシステムエンジニアなど、業務遂行の手段や時間配分などに関して使用者が具体的な指示をしない19の業務について、実際の労働時間数とはかかわりなく、労使協定で定めた労働時間数を働いたものとみなす制度。
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企画業務型裁量労働制
事業運営の企画、立案、調査及び分析の業務であって、業務遂行の手段や時間配分などに関して使用者が具体的な指示をしない業務について、実際の労働時間数とはかかわりなく、労使委員会で定めた労働時間数を働いたものとみなす制度。
事業場外みなし労働時間制
労働者が業務の全部又は 一部を事業場外で従事し、使用者の指揮監督が及ばないために、当該業務に係る労働時間の算定 が困難な場合に、使用者のその労働時間に係る算定義務を免除し、その事業場外労働については 「特定の時間」を労働したとみなすことのできる制度です。(労働基準法第38条の2)
事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務を対象としています。
事業場外労働のみなし労働時間の対象にできない業務
事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はできません。
- 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
- 無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合
- 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合
在宅勤務(労働者が自宅で情報通信機器を用いて行う勤務形態)について
次に掲げるいずれの要件をも満たす形態で行われる在宅勤務については、原則として、労働基準法第38条の2に規定する事業場外労働に関するみなし労働時間制が適用されます。
- 当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。
- 当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
- 当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。
※ただし、例えば、労働契約において、午前中の10時から17時までを勤務時間とした上で、労働者が自宅内で仕事を専用とする個室があり、勤務時間帯と日常生活時間帯が混在することのないような措置を講ずる旨の在宅勤務に関する取決めがなされ、随時使用者の具体的な指示に基づいて業務が行われる場合については、労働時間を算定し難いとは言えず、事業場外労働に関するみなし労働時間制は適用されません。
事業場外労働のみなし労働時間制における労働時間の算定例
― 労働時間の算定困難な事業場外での業務の遂行に通常必要とされる時間を「通常必要時間」とします。―
- 所定労働時間が7時間30分
- 休憩時間が1時間(午前12時から午後1時までの間)
- 始業時刻が午前9時、終業時刻が午後5時30分
通常必要時間が所定労働時間以内であれば、所定労働時間労働したものとみなして、1日の労働時間は7時間30分と算定して労働基準法が適用されます。
※ただし、事業場外労働が常態として所定労働時間(7時間30分)を超えて 8時間行われるなど、所定労働時間を超えることが通常必要となるときは、通常必要時間を労働したもの(この場合は8時間)とみなされます。
外勤の通常必要時間(例えば3時間の場合)と内勤の時間(上の例2の場合は4時間)を合計すると7時間となり、所定労働時間以内であるので、外勤については内勤と合わせて所定労働時間労働したとみなされ、1日の労働時間は7時間30分となります。
※ただし、外勤の通常必要時間が例えば5時間のとき、内勤の時間の4時間を加えると9時間となり所定労働時間を超えるので、この外勤は5時間労働したものとみなして、別途把握した内勤の時間の4時間を加えて、1日の労働時間は9時間となります。
時間外労働・休日労働・深夜労働
■時間外労働
事業場外労働のみなし労働時間制により算定されるみなし労働時間

別途把握した事業場内の業務に従事した時間の合計

■休日労働
事業場外労働のみなし労働時間制により労働時間が算定される場合であっても、労働基準法第35条の休日(以下「法定休日」という。)の規定は適用になりますので、法定休日に労働させた場合、その日については、例えば、労働時間の全部が事業場外で業務に従事してその労働時間の算定が困難であり、通常必要時間が所定労働時間以内であるときには、所定労働時間労働したものとみなしますので、この所定労働時間に対して3割5分増以上の割増賃金を支払う必要があります。
この場合、休日労働の日の所定労働時間は労働日の所定労働時間によります。
また、労働時間の一部が事業場内労働であり、通常必要時間と、別途把握した事業場内における時間の合計が所定労働時間を超えるときは、その合計時間に対して3割5分増以上の割増賃金を支払う必要があります。
なお、法定休日以外の所定休日労働の場合も法定休日と同様に、所定休日労働の時間を算定して、法定労働時間を超える時間は時間外労働となるので、上の(1)の時間外労働と同様に2割5分増以上の割増賃金を支払う必要があります。
■深夜労働
事業場外労働のみなし労働時間であっても、深夜労働の規定(労働基準法第37条第4項)は適用されますので、午後10時から午前5時までの間に実際に労働したときは、その時間については2割5分増以上の割増賃金を支払う必要があります。
事業場外労働のみなし労働時間制の適用をめぐる民事裁判例
いずれも、「みなし労働時間は適用されない」と判示された民事裁判例です。
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阪急トラベルサポート残業代等請求事件(最高裁第二小法廷平成26.1.24)
旅行会社の主催する募集型企画旅行の添乗業務について、事業場外労働のみなし労働時間制が適用できるか。
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ほるぷ賃金等請求事件(東京地裁平成9.8.1)
「プロモーター社員の展覧会場での展示販売業務」について、事業場外労働のみなし労働時間制が適用できるか。
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千里山生活協同組合賃金等請求事件(大阪地裁平成11.5.31)
「共同購入運営部門での配達業務」について、事業場外労働のみなし労働時間制が適用できるか。
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大東建託時間外割増賃金請求事件(福井地裁平成13.9.10)
「テナント営業社員等の事業場外労働」について、事業場外労働のみなし労働時間制が適用できるか。
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サンマーク残業手当等請求事件(大阪地裁平成14.3.29)
「情報誌の広告営業社員の事業場外における営業活動」について、事業場外労働のみなし労働時間制が適用できるか。
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光和商事解雇無効確認等請求事件(大阪地裁平成14.7.19)
「貸金等の営業社員の外勤」について、労働基準法第38条の2第1項が適用できるか。