[ 勤務形態別 ]固定残業代制
「固定残業代(定額残業代)」とは、その名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことです。
固定残業代制(定額残業代制)は、労働基準法の法令に規定されている制度ではありませんが、裁判例により、「一定の要件を満たす限り、適法であり、有効な制度である」とされています。つまり、一定の要件を満たさない場合は、違法であり、無効となります。
固定残業代制(定額残業代制)の要件
固定残業代制(定額残業代制)の場合、就業規則などに以下の内容すべてが明確に定められていなければなりません。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
- 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
- ・ 基本給 ××万円(固定残業代を除いた基本給の額)
- ・ □□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)
- ・ ○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給
※「□□」には、固定残業代(定額残業代)に該当する手当の名称が記載
※「□□手当」に固定残業代以外の手当を含む場合、固定残業代を分けて記載
※深夜労働や休日労働について固定残業代制を採用している場合も、同様の記載が必要
例えば、固定残業代制(定額残業代制)において、就業規則等で「1ヶ月あたり45時間の残業をしたものとして、固定残業代(定額残業代)10万円を支給する。」と定められている場合、従業員の1ヶ月あたりの残業時間が45時間を超えた場合、会社(使用者)から、その従業員に対して、固定残業代(定額残業代)として、定額の10万円の支給のほかに、45時間を超えて労働した時間分について、別途割増賃金が支給されます。
もっとも、従業員1ヶ月あたりの残業時間が45時間より少なかったからといって、固定残業手当(定額残業手当)が減額されることはありません。
固定残業代(定額残業代)に関する労務トラブルが増えています
人材紹介会社の従業員が、会社に対して、残業代の支払を求めた事件。
実際に、裁判所が固定残業代の合意を「無効」と判断し、固定残業代を支払っていても、会社に残業代の支払いを命じる判決が下されました。
固定残業代(定額残業代・みなし残業代)として、一定額を受け取っている場合においても、超過部分については、残業代を請求することができます。
よくある未払い残業代トラブル
労働基準法には、時間外労働に対して割増賃金を支払わなければならないことが定められています。 「残業代は支払わない」など、法令に違反する内容を就業規則や労働契約で定めても、労働基準法の規定が適用されますので、労働契約は、その部分に関して無効となります。
残業代を含めた固定残業代制(定額残業代制)は、法令では定められていませんが、過去の裁判例により、有効とされています。ただし、有効とされるためには、「1.固定残業代(定額残業代)が、それ以外の賃金と明確に区分されていること」「2.固定残業代(定額残業代)には、何時間分の残業代が含まれているのか」「3.時間外労働時間(残業時間)が、2.で定めた時間を超えた場合は、別途割増賃金を支払う」などが、就業規則などに明確に定められていなければなりません。
タイムカードなどに出退勤時刻が記録されていて、会社から黙認されていれば、「会社は残業することを認めた」とみなされるため、残業代は支払われることになります。
時間外割増賃金をめぐる民事裁判例
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T事件(平成24年3月8日 / 最高裁第一小法廷判決)
本件雇用契約は、(略) 基本給を月額41万円とした上で、月間総労働時間が180時間を超えた場合には、その超えた時間につき1時間当たり一定額を別途支払い、(略) 月間180時間以内の労働時間中の時間外労働がされても、基本給自体の金額が増額されることはない。(略) 基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法第37条第1項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないものというべきである。これらによれば、(略) 時間外労働をした場合に、月額41万円の基本給の支払を受けたとしても、その支払によって、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働について労働基準法第37条第1項の規定する割増賃金が支払われたとすることはできない(略)。
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U事件(平成20年10月7日 / 東京地裁判決)
販売手当(略) は、いずれも各店舗の売上等に応じて支給されるものであり、これが従業員が時間外労働や深夜労働をした場合に支給される割増賃金と同様の性質を有するものとはいい難い。(略) 販売手当が時間外勤務手当に代わるものであるという説明をしたとまでは述べていないのであるし、他に販売手当が時間外勤務手当に代わるものであるという説明をしたことを認めるに足りる証拠はないから、(略) 販売手当の支払をもって時間外及び深夜の割増賃金の支払ということはできない。
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F事件(平成20年3月21日/ 東京地裁判決)
少なくとも労働者が自分が当月働いた分についてどれだけの時間外労働がなされ、それに対していくらの割増賃金が出ているのかを概算的にでも有効・適切に知ることができなければ、労使の合意に基づいた労働条件の中身としての賃金なり給与条件の合意が成立したことにはならない。